Vol.8 ホイアンの朝市


旅先の朝はなぜかいつも早く目が覚める。

カーテンを開けっぱなしにして、薄暗い外にすこしずつ明るさが増していくのをぼんやり眺める時間が好き。

ホイアンの朝市

さてホイアン旧市街はズバリな観光地でありながら、そのすぐ近くにどローカルな朝市がたつ。

どこの国へいっても、朝市の活気に魅了される。

一日が始まろうというときの、むくむくと頭をもたげてくる感じの元気。

もりもり食べて、もりもり働いてやるぜ! という明るく前向きなエネルギー。

そういうの、東京にいるとあまり感じられないのはなぜだろう。

まずはアンホイ島まで自転車かっとばして朝のコーヒーをば
さかなー!
はっぱー!
またまた、さかなー!
腹ごしらえー!
三角傘ー! 似合うようになりたいな
こう、いかにも、起き抜けにやってきましたという飾らない感じがいい
圧倒的におばちゃん率が高いなか、たまに男子もいる。とうふー!
にわとりー! きっとシメたてで美味いやつ!
にくー!
この人は蓮の実を売っていた。戻して料理すると思うのだけど、乾燥したままポリポリ食べても美味しかったよ

前述の近藤紘一氏の著作にあった逸話を思い出した。

南ベトナム政府軍が、当時まだベトコンといわれていた解放戦線ゲリラの村へ夜襲をかける。政府側の兵隊にはもともと戦意がないから、いつも情報は相手に筒抜けである。だから、ワッと踏み込んでも、村はたいがい、も抜けのからだ。で、兵士たちはお定まり通り、出陣のボーナス集めにとりかかる。農家や納屋をシラミつぶしに掃討し、ニワトリやアヒルを捕虜にする。要するに略奪だが、これはとめるわけにはいかない。兵士たちにとってはニワトリなんてごちそうがトサカをつけて歩いているようなものだ。

部隊は首尾よく掃討を終え、戦利品を小脇に凱旋の途につく。その帰り途が一苦労だ。

相手は夜襲を予知して身を隠したのだから、どこかで待ち伏せしているかもしれない。ただでさえ、夜の農村地帯は解放戦線側の世界なのだ。兵士らは、息を潜め、靴音を殺して、一団となってアゼ道を歩く。小脇のニワトリやアヒルはそんな兵士らの気持ちにお構いない。何かのはずみで一羽が鳴きだすと、仲間もいっせいに「ガーガー、ケコケコ」と騒ぎ出す。夢中で黙らせようとしても、なかなか静まらない。まっさきに指揮官が頭にくる。

「敵に感づかれる。早く殺してしまえ」

指揮官は日頃、結構なものを食っているから、ニワトリぐらいで命を落とすのはまっぴらだ。

兵士たちだって待ち伏せにあうのは嫌だ。だが、トリを絞めてしまうのはもっと嫌だ。

「いま殺したら、陣地に帰って料理するまでに味が落ちてしまう」

必ず強硬に反対する者がおり、指揮官との間でしばしば第悶着が起こる。

「これだからとても戦争にならんのですよ」

と、米人大尉は騒々しく嘆いた。

〜『サイゴンから来た妻と娘』近藤紘一・著(文藝春秋)より〜

ベトナム人の食い意地にとっても親近感を覚える。